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イタリア映画あれこれ(1) [映画]

夫の入院以来、のなか病院へ毎日通う以外は家で過ごすことが多くなりました。
信念といっては大げさですが、映画は映画館で観るものというスタンスはが新しくなったことであっさり崩れてしまいました。
映画、オペラ漬けの夜を過ごしています。

最近印象に残ったのはベルトルッチ監督の「暗殺の森」1971)。
1928年から43年までのローマとパリにおけるファシズムがおこってから崩壊するまでの物語。DVDがでていますが、原作の「孤独な青年」(アルベルト・モラヴィア著)は廃刊になっています。

*簡単なあらすじ*
主人公のマルチェロ(J・L・トランティニャン)は13歳のとき体験した事件で心に傷をおっている。それは学校の帰り道で友だちにいじめられていると助けてくれ、家に連れていかれた男(少年に欲望を抱く)を殺したことだった。成人したマルチェロは、殺人狂かもしれない自分と精神を病む父、自堕落な母の血筋から逃れるために、熱狂的なファシストになっていった。そんな彼に反ファシスト粛清の任務が与えられた。平凡な人間になりたくないと豪語する彼は打算的にプチブルの娘ジュリア(S・サンドレッリ)と婚約する。彼の恩師であるカドリ(D・タラシオ)について調査せよとの命令が下ったとき、彼は新婚旅行と、任務を同時にやりたいと提案した。パリに亡命しているカドリを訪ねるにはうってつけの口実だ。政府のエージェントとしてマニャニエーロ・(G・マスキン)が同行することになった。やがて命令が変更され、カドリから情報を得るだけでなく、彼の抹殺に手をかすよう要請された。パリに着いた新婚夫婦はカドリの家へ招待され、彼が最近婚約したアンナ(D・サンダ)に紹介された。カドリ夫妻に歓待され表面は楽しいパリ滞在の数日を過ごした後、アンナがサボイアにある彼女の家へ行こうと誘う。アンナに惹かれ任務の遂行をためらうマルチェロだがマニャニエーロの非情な目が光っていた。四人はダンス・ホールへ行った。結局マルチェロは、後をつけてきたマニャニエーロに、明日はサボイアの家からカドリが車で一人ででるだろうと教えた。マニャニエーロが電話でカドリがでたことを知らせてきた。しかしその車にはアンナも乗っていた。二人が乗った車をマルチェロとマニャニエーロの車が追った。そしてマルチェロの目の前で、アンナもカドリの道連れになって殺された。数年後、マルチェロはジュリアと小さな娘の三人でローマのアパートで暮していた。一九四三年七月二五日、ラジオがファシズムの崩壊を報じた。盲目の友人イタロと彼は大混乱の夜の町を歩き、ファシズム仲間のイタロを見捨てる。そして街角で自分が射殺した筈のリノを目撃する。すべてが虚構だった。彼自身をふくめた一切の過去がくずれ去っていった。

35年前の映画とは思えない息をつかせぬストーリー、迫力があります。また一方では主人公をはじめ登場人物の心理描写も素晴らしいものがあり、ひとつひとつのセリフにこめられたニュアンスで、緊迫した社会を背景に生きる人々の感情を提示されます。主人公の性格形成についてもあれこれ考えさせられました。ベルトルッチの「シェルタリング・スカイ」よりずーっと感情移入できて、面白かったです。

主人公に扮するトランティニャンは、ネットでチェックしたところ1930年生まれだそうです。ニヒルな感じはシニアになってからも残っていて、素敵な役者さん。

特に彼のファンというわけではないのですが、青春時代に見たイタリア映画というと思い出すのがズルリーニ監督の「激しい季節」1959)。

*簡単なあらすじ*
舞台は第二次大戦も末期の高級避暑地。トランティニャンが演じる主人公カルロはファシスト党の高官の息子という設定。上流社会の若いグループは祖国の危機をよそに享楽的な青春を送っています。主人公は彼に想いを寄せる若い令嬢(ジャックリーヌ・ササール)よりも子持ちの海軍将校の未亡人ロベルタ(エレオノーラ・ロッシ・ドラゴ)に惹かれ、激しい恋に落ちます。そしてムッソリーニの失脚とともにカルロの父も逃亡。兵役延期のできなくなったカルロは子供を置いてきたロベルタと駆け落ちをするのですが・・・結局夫人は子供のもとに帰り、カルロは戦場へと去っていきます。エレオノーラ・ロッシ・ドラゴが年上の成熟した女の魅力をあますところなく見せて圧巻でした。

「暗殺の森」とほぼ同時代のストーリーですが、「暗殺の森」に較べると映画としての出来はいまいちだったと思います。しかし進学のため上京したばかりの田舎出身の少女にとっては忘れられない映画になりました。刺激ありすぎの官能的な世界がひろがっておりましたから。多分ベットシーンも初めてだったはずです。ダンスシーンに流れるあの主題歌「テンプティション」?のメロディもしっかりインプットされました。この歌の歌詞は英語ですが台詞はどうだったのでしょう?ダンスといえば両方の映画のハイライトシーンに使われています。

この映画で片思いの令嬢になったジャックリーヌ・ササールはあのころ大人気でした。高校生だったとき見た「芽生え」のバレエを習う場面の黒いタイツ姿や雨に濡れるトレンチコート姿の清純、可憐なスタイルはいまだ瞼に焼き付いています。彼女は上手くイメージチェンジできないまま結婚して引退しましたが、可愛いおばさん(おばあさん?)になったことでしょう。

念のためですが、当時は制作年より2.3年後に日本で封切りされました。
しかし、映画の話をすると歳がバレバレ。


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コメント 15

keyaki

>ジャン・ルイ・トランティニャン
おぉ〜懐かしい! 「男と女」ではまりました。

最近は、私も映画館には、早く見たい!というものだけです。
我が家も一昨年大画面に買い替えましたが、今まで、暗すぎてよく見えなかったオペラが、舞台の奥の方まで見えるのに大感激したものです。

寒い中の病院通い、大変ですね。
久しぶりのブログの更新、ということは、ご主人様も順調に回復なさっているようで、一安心というところでしょうか。
by keyaki (2006-02-03 09:39) 

alice

Keyakiさん、ジャン・ルイ・トランティニャンの写真貼りました。(^^)
「男と女」いい映画でしたね。パート2は未見ですが・・・おススメですか?
今まで気がつかなかったのもおかしいのですが彼、フランス人ですね。イタリア映画として取り上げましたが、フランス映画や仏伊合作映画により多く出演してます。これも見逃しましたが、「トリコロール赤の愛」が最近作でしょうか?
予告編ではすごく老人に見えてショックでした。

夫はおかげさまで術後のトラブルもなく、来週末には退院の見込みとなりました。手術室に入る前は「麻酔から目が覚めないかも・・・」と顔面蒼白で怖がっていたのに、今や私の顔を見ると「早く家に帰りたいな~」です。(^^)
by alice (2006-02-03 22:32) 

tina

ご主人様、順調に回復なさっていらっしゃるようでほっとしました。掲示板でも見たのですが、ブログの更新をお待ちしていました。とても理解のある方のようですね。羨ましい、と言ったら、うちのに申し訳ないかな。
ササール・コートというのが流行りましたね。
三月にピエロ・デッラ・フランチェスカとクリヴェルリを訪ねるツアーに参加することになり、バルトりのチケットが宙に浮いてしまいました。体はひとつで困りました。
by tina (2006-02-03 22:53) 

keyaki

>ジャン・ルイ・トランティニャンの写真貼りました。(^^)
ありがとうございます。

>パート2は未見ですが・・・おススメですか?
もちろん興味があったので見ましたが、全く覚えてません。
なので、多分おススメではないと思います。(^^)
>老人に見えてショックでした。
最近の作品は見ていない様な気がします。
クリント・イーストウッドなんかですとずーっと見ていて、見慣れてますので、年をとったとも感じませんが、やはりショックですね。
by keyaki (2006-02-04 10:17) 

kikuko

ご主人様、順調でいらっしゃるとのこと、本当に良かった! この分野での医学の進歩は目を見張るものがあります。
 ずいぶん前ムに録画した「暗殺の森」と「暗殺のオペラ」が同じビデオテープに入っているので、見出すと、長時間、テレビの前に座り込んでしまいますが、DVDが出たのですね。雨の中を歩き回ったサッビオネータが懐かしいです。
 掲示板の最新コメント、怪しそうなので、開きませんでした。あちこちの掲示板が閉鎖に追い込まれて、残念でなりません。
by kikuko (2006-02-04 10:25) 

Bowles

『暗殺の森』は何年か前にDVDが出たのですが、まだ今も廃盤状態だと思います。最近CS等で『暗殺のオペラ』(こちらはいまだDVDなし)ともども何度か放映していましたね。

>「シェルタリング・スカイ」よりずーっと感情移入できて、面白かったです。

映画としては『暗殺の森』のほうが良くできていますが、私の場合痛くなるほど感情移入できるのは、別にHNのせいではありませんが(^^;)『シェルタリング・スカイ』のほうですね。

>暗殺の森」に較べると映画としての出来はいまいちだったと思います。

いやいや、とんでもない!!現にこうやってaliceさんの印象に残っているではありませんか。ズルリーニは今でこそあまりかえりみられることの少ない映画監督ですが、資質的にはベルトルッチよりずっと上かもしれません。

私が時々お邪魔しているBlog、TARO'S CAFEのTAROさんもズルリーニがとてもお好きで、何度か言及されています。ね、keyakiさん!!

トランティニャンはトリュフォーの最後の作品なども印象的でしたが、シェローの『愛する者よ、列車に乗れ』は映画ともども大好きです。あそこで彼は双子役でした。ただしあの映画、私好みの役者さんがいっぱい出ていて、彼が実はいちばん印象が薄かったりして...。

tinaさん、はじめまして!

>ピエロ・デッラ・フランチェスカとクリヴェルリを訪ねるツアー

なんていうのがあるんですか! ちょっとびっくりです。
クリヴェッリはどこのものをご覧になるのでしょう。
by Bowles (2006-02-04 14:11) 

alice

Tinaさん、

ピエロ・デッラ・フランチェスカとクリヴェルリを訪ねるツアーに行かれるのですね。Bowlesさんもそうですが、私も驚きました。ピエロはともかく、クリヴェルリ巡りのツアーができたなんて・・・それだけ有名になったということでしょうか。
早春のトスカーナ、ウンブリア、マルケ・・・いいな、いいな。

そうそうササールコート!イタリアファッションの最初の洗礼を受けました。買えなかったけど・・・。
by alice (2006-02-04 22:50) 

alice

Keyakiさん、「男と女」のパート2はやはり柳の下のなんとかだったのですね。
パート1のほう、そういえば主人とお見合いしてからデートで観た思い出の映画です。これから結婚しようかというふたりにとってぴったりとは言えないけれど、しばらくこの映画の話題で間が持ちました。(^^;)

ジャン・ルイ・トランティニャン、トリコロールでは若い女性との恋愛のお話?でしたから無理があったのかもしれませんね。その点、クリント・イーストウッドの最近作(アカデミー賞の)では相手もヒラリー・スワンクという個性派タイプなので年の差もあまり如実にでないところが良かったのかも。
by alice (2006-02-04 23:16) 

alice

Kikukoさん、イタリア映画の背景になっている地を歩かれて一番印象に残っているところは何処ですか?いろいろお聞きしたいですぅ~!!

「激しい季節」の高級避暑地はリッチョーネだそうです。どこかで聞いたことがあると思ったらペーザロとリミニの間にある町、列車で何度も通過しました。このあたりは現在は庶民的な海水浴場になってるように見えましたけど。
「フェッラーラ物語」(この映画は未見)に出てくる避暑地もこのあたりでしたか?
by alice (2006-02-04 23:43) 

alice

Bowlesさん、↓はやや確信犯的?に書きましたなんて・・・。
>「シェルタリング・スカイ」よりずーっと感情移入できて、面白かったです。
最近もう一度見る機会があったのですが、北アフリカの空気や風土は非常に面白いのですが、あの夫婦のけったいさ(怒らないでぇ~)が理解できません。
原作読まなければ駄目ですね。

そうそう割合最近の映画はオンデマンドといって400円かかりますが、「五線譜のラブレター」を見ました。
コール・ポーターの伝記映画ですがご覧になりました?とっくにご存知かもしれませんが、あの映画になんとカルヴィン・トムキンズの「優雅な生活が~」のジェラルドとセーラー夫妻と子供たちが登場してました。400円出しても観た甲斐がありました。(^^)

土曜日の夜なのでこのブログとても重くなってきました。続きは明日・・・。
by alice (2006-02-05 00:10) 

alice

続いてBowlesさんへ
昨夜は失礼致しました。いろいろあって少し酔ってました・・・。「けったな」と言う表現は不適切だったかも知れませんね。m(__)m

ボールズ夫妻については四方田氏の優れたエッセイで理解を深めることができました。ジュネもそうですが20世紀半ば?に欧米に背を向け、モロッコに惹かれていった作家たちの精神のありように心動かされました。いつかタンジールに海から上陸したいと思っていたのは「シェルタリング・スカイ」のあの冒頭のシーンが好きだったから・・・。

>TARO'S CAFEのTAROさんもズルリーニがとてもお好きで、何度か言及されています。
早速覗いてみましたが、古いほうの記事らしくなかなか現れません。後からゆっくり読ませていただきますね。

なにげなく書いた(ほとんどあらすじでごまかした)映画のトピなのに、みなさんにコメントいただいて嬉しかった!!
by alice (2006-02-05 09:35) 

tina

「クリヴェルリという画家をしっているか?」旅行会社のパンフを読んでいた夫の一言で、あたふたとツアー参加が決まりました。なぜクリヴェルリに関心を持つようになったのか今となってはわからないのですが、いつも気になる画家でした。十年ほど前は美術史の講座によく通っていましたが、一度もとりあげられたことはありませんでしたので、海外の美術館を巡っているうちに自然にインプットされたとしか思えません。今回はピエロのほうが主のようですが、Ascoli
Piceno と Montefiore dell'Aso でクリヴェルリが見られるようです。残念ながら、Macerata はよりません。aliceさんの、ホームページを参考にさせていただいています。何年か前、Verona にピサネッロの「鶉の聖母子」を見に行って思いがけずクリヴェルリが見られて嬉しかったものです。 
最近、人気が出てきたのでしょうか。「女教皇ヨハンナ」のカバーがクリヴェルリですね。リブロポートの本がまたどこかで出してもらえると嬉しいのですが。 
「ロマネスクの園」などいい本を出していたのに残念です。
せっかく何年もイタリア語を勉強してきたので、個人で行きたいのですが、年齢的に夫と二人きりでは不安になりツアーがあるならと、参加することに・・・
最後にローマでアントネッロ・ダ・メッシーナの特別展を見る予定というのも魅力的ですし。
by tina (2006-02-05 13:54) 

alice

tinaさん、
> AscoliPiceno と Montefiore dell'Aso でクリヴェルリが

Montefiore dell'Aso 、実は寄ってないので次回の楽しみにとってあります。
最近ガラスケースに収まったと言う情報もありました。開館(教会)の時間も限られていますし、個人ではハードなところですのでツアーが良いと思います。

>「女教皇ヨハンナ」のカバーがクリヴェルリ
ミステリーですか?クリヴェルリ人気は確かに高まっていますね。2年前の海外ミステリーのベスト1位?になった「半身」もクリヴェルリでしたね。

>リブロポートの本がまたどこかで出してもらえると嬉しいのですが

3年位前に古本屋のサイトで見つけたことがあります。何冊かでてましたがすぐ完売になりました。今度発見したら即押さえておきますね。
by alice (2006-02-06 16:49) 

tina

「女教皇・・・」は、九世紀に実在したと言われる女性を主人公にした小説です。映画化も予定されているとか。教皇庁は否定しているそうですが。
Anconaにも寄るのですがクリヴェッリは予定に入っていません。事前講座があるので、聞いてみようと思っています。ミラノの作品は何度か見ているのですが、だいぶ前なのでまた見られるのは楽しみです。

パソコンを始めたのが三年ぐらい前なので、そのころ古本屋サイトは知りませんでした。昨年末に友達に教わって時々覗いていますが、もし見つけられたらよろしくお願いします。
by tina (2006-02-07 13:19) 

Bowles

>tinaさん

素晴らしいツアーですね。アスコリはともかくモンテフィオーレは、個人では車ないしはタクシーを使わなければほとんど行き着けないところなので、こうやって組み込まれているのでしょう。またマルケに残っているクリヴェッリの作品の中では、保存状態が良く、作品のクォリティも高いものだと思います。2001年に私が行ったときはガラスはありませんでした。マルケの素晴らしい風土を楽しんで来てくださいね。

>aliceさん

「確信犯」ねぇ(笑)。いや、ホントに「けったい」だからいいんですが、題名にもなっている「空の天蓋」のシーンね哀しくなりません?人間の存在の哀しさというか...。

『フェッラーラ物語』にも出てくる、実際に少年期のバッサーニが家族とともに行っていた避暑地はリッチョーネです。ムッソリーニの別荘があったのもここ。『フェッラーラ物語』は映画としての出来はどうも...。思い入れだけで見ることのできる映画です。
by Bowles (2006-02-14 09:47) 

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