2010年早春の旅7 (ニューヨーク) [2010春アメリカ東部の旅]
3/16(火)
朝、浅い眠りから目が覚めました。ようやく、春らしい明るい日差しがカーテンの隙間から部屋に差し込み、遠くから聖パトリックディの催しのマーチが聴こえてきました。こうなると寝不足もなんのその、元気に行動開始しなければ・・・てるてる坊主の名が廃ります。
↓地下鉄の駅へ向かう途中METへ寄り道。 昨年は工事中の塀で囲まれていたMETの広場。以前に比べて、どこが変わったのか良く分かりませんが、噴水が立派になって、前広場への階段に照明がつきました。
↓ 今夜が初日の『アムレ(ハムレット)』のポスター。これを見ただけでドキドキ(笑)。
さて、今日はブログ仲間のレイネさんからの情報で知った『The Hours of Catherine of Cleves』展を観るために、モーガン図書館&美術館(初訪問)へ。
地下鉄で33STまで行き、徒歩で数分、Madison AVに面した角に建っています。↓の建物は1928年築のアネックス棟。
↓ 右の新しい建物(中央のエントランス棟)から入館しますと、大きなガラス張りのアトリウムが広がっています。
↓ 左の建物は1906年築の図書館。内部もここがアメリカとは思えないクラシックで豪華な空間です。天井までの壁面を覆う巨大な本棚に古書がびっしり並んでいます。イタリアのパラッツオスタイルの凝った内装に古書の並ぶさまには圧倒されました。奥のガラスのショーケースには1月に亡くなったばかりのサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』の初版本(1951)が飾られていました。
内部はカメラ禁止です。↓ミュージアムショップはOKかと思って撮ったのですが、注意されました。
内部の構造は増築を重ねたせいで、複雑で分かりにくく、時祷書の特別展も前もって知っていたから尋ねながらいくことは出来たようなものです。
アネックス棟では『The Hours of Catherine of Cleves』展のほかミケランジェロのヴァチカンにあるピエタのドローイングやパルミジャニーノの素描などが展示されていました。時祷書に気をとられていたらしく、細かいことは忘れてしまいましたが、かなり貴重なエッチング、ドローイングのコレクションでした。次回は落ち着いて鑑賞したいと思います。また地下にはコンサート・ホールもあり、優れた音楽家の演奏会が行われているようです。次回はその音楽会も含めて、ぜひ再訪してみたいものです。
さて、アネックス棟の奥まった部屋にお目当ての時祷書(ここの収蔵品)が、全部ではありませんがばらばらに額装され展示されていました。他にはファクシミリ版のまるごと一冊が置かれ、自由に観られるようになっていて、とても嬉しいことでした。でも、順番待ちですから、あまりゆっくりは観られなくて残念でした。展覧会自体はそれほど混んでいませんでしたが。
『The Hours of Catherine of Cleves』は1440年オランダのユトレヒトで制作されたゴシック・スタイルの時祷書。作者はThe Master of The Hours of Catherine of Clevesという長い名前のマイスターの手になるものといわれています。15世紀の豪華な金銀で彩られた時祷書のひとつです。157葉のラテン語で記された祈祷文に、カラフルな挿絵がなんともゴージャスです。
Catherine of ClevesがGuelders公爵との結婚のとき(1430)に発案&注文されました。そのせいもあって、女性的な華やかさとともに細やかな日常の描写にも優れ、大層素晴らしいものです。
16世紀に同じ名前の有名な女性がいたようで、ウィキペディアでは上記のカテリーヌは見つかりません。
↓ ブック・ショップで購入してきたカタログの表紙。左下にCatherine of Clevesの祈る姿がイラスト風に配置されています。下の3枚は絵葉書。
↓ オリジナルは「The Virgin and the Christ Child」の左下に描かれています。周りの紋章は夫の公爵の支配する領地のものでしょうか。
↓ 聖人の絵より周りを縁取るいろいろな鳥籠に惹かれました。特に下部のハンドルをまわす鳥籠はただの遊び?それとも鳥の運動不足解消?
↓ いかにもネーデルランド、ムール貝が美味しそう。
一点一点を、とても面白く観たのですが、紹介しているときりがありませんので、この辺で。
ランチは館内のレストランで。満席のため待ち時間がありましたが、買い物をして戻りますと、時間前でしたがすぐ案内してくれました。パンが美味しく、オマール海老のサラダとデザートだけで充分でした。きびきびしたサービス、お洒落なランチを楽しめました。ここで食事なさる方は入館と同時に予約したほうが良いでしょう。チケット売り場のすぐ左の階段を数段上った所です。
目も舌も至福のモーガンを後にホテルに戻り午睡。開演15分前にMETへ。
トマ『ハムレット Hamlet』 20:00開演
CONDUCTOR:Louis Langree DIRECTORS:Patrice Caurier&Moshe Leiser
Hamlet:Simon Keenlyside Ophelies:Maris Petersen Claudius:James Morris
Gertrude:Jennifer Larmore Laerte:Toby Spence
Ghost of Hamlet’s father:David Pittsinger Polonius:Maxim Mikhailov
席はオーケストラの4列目右端、$177.50。着物なので端の席は立ち居にあまり気をつかわなくて澄みますので、良かったです。今回もカメラは持参しませんでした。着物姿でカメラを構えるのには抵抗がありますから・・・エレガントぶりっこ(笑)。
さて、前奏曲が始まりました。「ありゃ~」金管のひどいこと!ズンタッタ、ズンタッタと素人じゃあるまいし・・・。以前もこの音に遭遇した経験がありました。それもルイージさまの指揮のときだったので、優れた指揮者でもどーにもならぬ演奏者がMETには居るもんだと再確認した次第です。だからラングレにはブーを飛ばす気はありませんでした。正直、良く頑張ったと思いました。デセィが降りて代役のペターゼンがNYに来たのが数日前、彼女の指導だけでもどんなにか大変だったでしょう。後から聞いたところによると、全員揃ってはこのプルミエの舞台は初めてだったそうです。そんな事情があるにしては、とても見事な舞台に仕上がっていたのは奇跡に近いと思いました。
演出にもブーが出たのですが、私は簡素な装置ながら、息詰まるドラマ性、特にキーンリーサイドの歌うハムレットの心理描写が浮かび上がる想定は秀逸。雪崩を打って悲劇の終盤を迎えるまでのドキドキ感は2年前のリゴレット(ドレスデン)以来でした。そのキーンリーサイドの歌役者ぶりには本当に魅了されました。歌唱自体もいままで経験してきた彼のパフォーマンスのなかでも最高!!でした。ハムレットが乗り移ってるみたいな、仇討ちに踏み切れない自分の弱さにも苦悩し、狂人のようにワインを頭から被って、テーブルにあがる場面は特に息を呑みました。
デセィのキャンセルというとても残念なことがありましたが、ペターゼンはその穴を立派に埋めてくれました。デセィと同じようなテクニックの歌を期待していませんでしたが、時々はっとするような透明な歌声に感心しました。写真よりも背が高く、スマートで美しい方です。幕が上がって登場した白いドレスのオフィーリアの気品のある立ち姿に思わず「ほ~っ!」でした。ただ、ハムレットとの絡みがいまいち淡白感があったのは残念でした。多分ハムレットと母ゲルトルードとの緊迫感が二人の恋人の切なさの印象を薄めてしまったのかも知れません。他の歌手もそれぞれ頑張って、初日を盛り上げたのですが、例外が独り・・・クローディアスのモリス、演技も歌も酷かったのです。昨日のレイミーに続いてのベテランの失速でした。この後の公演でなんとか立て直して欲しいものです。
↓ 翌日の朝刊(おおむね好批評だったようです)
↓ 夜食はホテルの近くで持ち帰りしていたお寿司を食べて(半分残して勿体無かった)就寝。
「クレーブのカトリーヌの時祷書」展、NYでご覧になったのですね。いいなあ。
わたしは、昨年秋からてぐすね引いて、観にいく予定を立てていたのですが、年末の大雪で電車が動かず行けなくなってしまいました。NYにいつか行って、モーガンを訪れたいと願っています。
時祷書のムール貝のページが、いかにもご当地風でいいですね。キッチンやこの絵にしても注文主の女性らしさがうかがえます。
ところで、9月にウィーンでマレーナ様も出演する「セメレ」、ご覧になる予定なんですか?わたしも、ぜひこれは観たい、と思っています。
by レイネ (2010-05-04 07:01)
レイネさま
おかげさまで「クレーブのカトリーヌの時祷書」、観ることができました。感謝です。
>年末の大雪で電車が動かず行けなくなってしまいました。
そうでしたね。いつかぜひ!モーガンで観られますように祈っています。
ほとんどがフェミニンで親密なページが多い中で、異様な一枚。ボッシュが影響を受けたとされる悪魔が大きな口をあけている絵があり、これは強烈でした。
9月のウィーン、最終公演に辛うじて行けそうなので、セメレのチケットだけは取っておこうかなと思っています。ただ、10月初めのアムスのミンコまでになると、長過ぎてクレームがでそうですが・・・。
ご一緒できると嬉しいです!
by alice (2010-05-04 20:49)
お久しぶりです。今回の旅行記も楽しく読ませていただいています。
>The Hours of Catherine of Cleves
素敵ですね~~!これだけ質の高い祈祷書が展示される機会はそうそうないでしょうから、aliceさんが羨ましいですー。
>Hamlet
>「ありゃ~」金管のひどいこと!
私も、ラジオ放送で聴いてずっこけました(^_^;)イキナリこれですか!?と心配になりましたが、全体的にはラングレの指揮は気に入りました。それにしてもキーンリーサイドは素晴らしかったですね!ライブビューイングでも絶好調な雰囲気が伝わってきましたけれど、劇場で生で聴けたら&見られたら最高だろうな~と思っていました。デセイのキャンセルの影響は最小限に抑えられた公演でしたよね。
by Sardanapalus (2010-05-08 10:45)
Sardanaplusさま
モーガンの写本関係のコレクションは素晴らしいです。他にも楽譜では見逃したのですが、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタもあるそうです。
キーンリーサイドの記事が豊富なSardanaplusさんのブログにいつも助けられています。METのインタビューもアップしてくださって、感謝です。彼の声にも(歌ってなくても)、ユーモアのセンスにもしびれました(笑)。
by alice (2010-05-08 19:43)